瞑想で出てくる雑念は「命の防御システム」だった

考えや思いがぐるぐると

瞑想を始めて静かに座ると、体は落ち着いているのに、頭の中がぐるぐると動き回って、今ですか? という考えや思い、記憶、音楽などが次々と出てくるという経験は誰にでもあるだろう。いわゆる雑念。この雑念がいつまでも消えないので、瞑想を続ける根気がもたなくなってしまい、瞑想をやめてしまう人も少なくない。

けれど、普段はこんなに頭の中にいろいろな考えた思いなどが生まれているのに、気づいていないとも言える。脳内は多重構造なので、一度にいろいろなことができ、いろいろ起こっているのに気づいていないだけなのだ。

雑念はものごとを判断するための材料

瞑想の話をすると、必ず出てくる質問が「雑念が出てくるので瞑想ができません、どうしたらいいでしょうか?」というものだ。

『Yogini』Vol.79の瞑想特集の中で話を聞いた林良樹先生によれば、雑念はそもそも「自分を守るためのシステム」だと言う。

「例えば目の前にリンゴがある時、これを食べてもいいかどうかを脳は瞬時に判断しなければなりません。そのために脳内にファイリングされているリンゴに関係する情報を引き出してきます。しかも、正しく判断するためにできるだけ広く情報を集めます。そうすると、中には食べていいかどうかの判断には直接関係のない情報も出てくるわけです」

直接関係のない情報は必要ないと思うかもしれませんが、判断するために多種多様な情報を引き出してくることが必要なんです。結果として、目的に叶った情報は“つじつまの合う思考”となります。目的とはあまり関係のなかった情報は“雑念”として扱われてしまいますが、それを分類しているのは私達であり、脳はただ、次々と連想するという役割を果たしているだけなのです」

雑念の発生数は1分間に600個!

これは、食べることにかかわらず、生きるため全般に対して言えること。他にも身近な例を出せば、買い物をする時にも、値段や色や形、サイズ、肌触り、家のクロゼットにある他の服、収納、友達の評価、自分の見た目、テレビで話題だった流行の服などたくさんの情報から判断して、自分が納得するものを選ぶだろう。それらの情報は、直接関係ないものでも脳の中にインプットされている「服」の項目から引き出されてきて、取捨選択されるのだ。しかも、その数は、脳のスペックから計算するとなんと1秒間に10個! 10秒で100個、1分間では600個!!

雑念はどこにある?

「経験したことはまず、一時的に脳内の海馬(かいば)に保管されます。数時間以内に思い出したり、再び同じ経験をすることがない場合はそのまま消去されますが、数時間以内に繰り返し思い出すような大事なことや、命にかかわるような記憶は、消されずに長期記憶になります。さらにこれが数週間おきに思い出されるとより強固になって、大脳皮質に書き写されます。これらの長期記憶には、その経験をした時の感情や体に起こった現象までも記憶されているので、再び思い出した時に恐怖や不安も一緒に蘇ったりするのです」

この無防備な状態で大丈夫?

瞑想した時に出てくるのは、昨日食べたケーキや大好きな音楽など最近の記憶だけでなく、古い恐怖やトラウマなども出てくる。雑念は生きるための記憶なので、過去のトラウマや恐怖は重要な要素なのだ。では、なぜ雑念が瞑想の時にわき上がってくるのか。

危険信号は、自分の命を守るために出てくる。つまり、そこから考えると、雑念は不安な状況になると現れると考えていい。判断が必要というのは、そういうことだ。

瞑想は、命を守るということからすると、まったく無防備な状態。本当に瞑想に入ってしまえば、誰かにちょっかいを出されてもわからない可能性がある。それは命にとってはできれば避けたい状況とも言えるのだ。だから、雑念がたくさん出てきて、この今の状態を理解しようとする。過去の恐怖やトラウマが出てきて、大丈夫か? と自分に問いかけるのだ。

安心できる環境作りがカギ

では、雑念から早めに解放されるにはどうしたらいいのだろう?

それは、この状態でも安心ですよ、という状況を作ることだ。瞑想に慣れること。習慣化が雑念を最小にするカギと言える。

習慣化とは、同じ時間、環境などを用意した上で続けていく、ということ。間が空くと、なかなかなじめずに、自分の命の防御システムが発動してしまうからだ。

瞑想は続けて行うことで、やっとそのよさやありがたみを感じられるようになる。瞑想をやっているのだけれど、なかなか脳内が静かにならないという人は、環境など確認した上で、根気よくつき合っていこう。雑念は悪いものではないのだから。

 

Text:Yogini編集部

出典:『Yogini』Vol.79

監修:林良樹

はやしよしき。薬剤師、薬学博士。厚生労働省の研究機関を経て製薬会社で医薬品の研究開発に携わる。ヨガと瞑想を日々実践し、雑誌記事の執筆や監修も多数。2019年、地元の熊本県天草市に、日常の健康を見守る薬局「はやし薬局」を設立。