ヨガが世界に平和をもたらす理由

平和とは心の中の状態

あなたの中の「平和」とはどんな状況だろうか? 静かで穏やか、心が安定している状態。自分の周りにあるすべてに感謝していられる状態、ここに今在る自分の有り難さに感じ入っている状態…。もし、こんないつもこんな気持ちでいられたら、どんなに周りがあわただしくても、怒号渦巻く状態でも、もしかしたら「平和」でいられるかもしれない。そう、平和とはあくまでも個人の心の中の状態のことだからだ。

ユネスコでの「平和」の定義

ちなみにユネスコでは、憲章の前文で「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と宣言。相手の風習と生活の無知が、疑いや不信を生み戦争へ。心の平和には、教育、客観的な真理、自由による知性、精神的なつながりが必要だと強調している。

では、ヨガ哲学では「平和」とはどんな状態なのだろう? そんなギモンから一つの記事を作った。『Yogini』Vol.47、2015年の記事だ。今回はその中から、「平和とはナンダ?」ということを考えていくフローを紹介しよう。これは、考えを追っていく一つの瞑想だ。

平和にはさまざまな意味がある

①平和とは「個人の精神的な平和」が基本

②平和な個人の集合が平和な家庭、平和な国家を生み出す

③平和にはいろいろなレベルがある
1)精神面、2)肉体的な健康面、3)人間関係(家庭、地域、職場、学校他)、4)経済に対する精神状態、5)社会面(地域、国家、国家間、世界他)、6)自然環境(気候変動などの影響)

④自分だけ平和であっても続かない

まずは一人ひとりが幸せであることが大事だが、それには取り巻く環境すべてが影響する。現在の日本は③に挙げられているリストがどれも不安な状態なのではないだろうか…。

そもそも人の本来の姿は平和な存在

さあ、ここからヨガ哲学の世界へ突入!

⑤平和はトリグナのうちサットヴァが高い意識状態
世界の平和はサットヴァな個人が集まって実現できる。だから、世界が平和であるためには、個人が真の意味での幸福を得ることが必要だ。個人が純粋性を取り戻すこと。そして、個々人が内面に満ち足りた心を開発する必要がある。

⑥なぜなら人は心が満ち足りている時、自然と創造的になれるから

⑦平和の乱れは個人の精神的なところから始まる
知性(buddhi)の未発達による無知。自分の知識が正しいという思い込み。
自我(ahamkara)の未発達。間違った自己主張。
心(manas)の未発達。妄想、不安。怒り、悲しみ、不満など。

⑧個人の欲望不満が周囲に不調和をもたらす
自己の欲望だけを満たそうと行動するとラジャスが増え、社会の競争も悪化。口論や暴力や争いが生じる。争いが戦争に発展することも。また、自己の欲望が満たされず、頑張るだけムダと悲観的になるとタマスが増える。平和への無関心や無気力が生じ、創造性や進歩が停滞した世の中を招き、不正や格差も増える。このようにトリグナと心と行動の関係性から平和が乱れる。

⑨平和なサットヴァの状態が乱れ、ラジャスやタマスに傾く
世の中の純粋性は失われ、ラジャスかタマスのどちらかに価値が見いだされるようになる。

⑩世の中はラジャスとタマスへ二極化
自然法との調和は減り、不秩序が増す。これが平和でない理由。

だんだん身につまされる状況になってきた。周囲を見渡すと、このような状態に陥っている社会が見える…。しかし、これも元を正せば個人の心の持ち方となるから、これまた恐ろしい…。

平和への近道は、八支足の実践

⑪肉体面を整え、健康な生命を維持増進
アーサナは肉体を健康にし、精神の平和な行動を支える肉体的な実践。日々の規則的な実践により、肉体(筋肉骨格系、呼吸器系、神経系、免疫系他)が浄化、強化される。病気の予防、ストレス管理、深い睡眠にも貢献。規則的な生活や食事習慣のサイクルにも効果的。運動・仕事・学習能力の向上にもつながる。

⑫肉体が整うと精神面に調和と余裕が生まれる
ニヤマは心身の浄化の他、強欲さから離れ欲張らないこと、悟りを得るための心身の鍛練、真我の学習、深い瞑想による平和を広げる土台作りのため日々行う実践。これにより内面がサットヴァに道、宇宙の根本原理、ブラフマンとのつながり、すべてに対して平和で秩序的で、生命を豊かにする影響力を生み出せる。

⑬個人の心身が整うと人間関係の平和を保てる
ヤマは直接的に社会に平和を広げるダルマ(法)と調和した実践。いかなる時、場所、方法でも非暴力が基本となる。虚偽、窃盗、性的耽溺、不当な所有も戒めている。これは自己の平和をも育む。

⑭視野の広がり、あらゆるものとの一体感を感じられる
プラーナーヤーマは肉体組織を浄化、強化し、心身の調和と平和を生み出す呼吸法の実践。

⑮瞑想の実践でサットヴァを増やし自分の中の平和を確立
サムヤマ(ダーラナー、ディヤーナ、サマーディ)は心、自我、知性の活動を停止し、すべての平和の源——真我を確立する瞑想の実践。

⑯自然体のままで世界に平和をもたらす存在になれる
心の平和が確立されると、呼吸や肉体も健全になり、人は周囲に自然と幸福や平和を作り出そうとする。こういった人が増えれば、世界の平和も実現できるはず。

⑰ヨガのシステムは正解に平和をもたらすことが可能!
平和は、心が常に幸福で創造的な時に実現できる。インドのモディ首相は国連で「ヨガは平和な社会を作るための最適な手段」と語った。ヨガによる平和な心は、世界平和のツールなのだ。

八支足を平和のための心のコントロール法と考えると、とてもしっくりいくのではないだろうか。ヨガはハッピーになるためのツール。それはすなわち、自分自身が平和になり、周囲に平和を集めていくこと。その人数が世界中にどんどん増えることで、世界の平和は実現されるということなのだ。

 

Text: Yogini編集部
出典:『Yogini』Vol.47「ヨガで読み解く“平和”とは何だ?」

※サンスクリット語では「八支足」の方が正しい表記だということで、Yogini編集部では「八支足」という表記を採用しています。