『ナルニア国物語』PART2 衝撃のラストでサマディーを描きだす

『ナルニア国物語』PART2 衝撃のラストでサマディーを描きだす

みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。前回に続き、『ナルニア国物語』を取り上げたいと思います。今回は、カーネギー賞を受賞した『ナルニア国物語』の衝撃的なラストの作品を見ていきたいと思います。

最終巻の驚きのラストについては、いろいろな人が様々な意見を言っています。

「茫然とするような結末」という意見や、「生を放棄し、死を賛美する最悪の結末」という意見、「敵も味方ももろともに暗い世界へ崩壊していくイメージ」だという意見もありますが、いずれにしても、何かしらの衝撃を受けずにはいられないラストだといえるでしょう。

そんな賛否両論を巻き起こしたラストを今、ここで特別に取り上げるのは、それがヨガの世界観と深くかかわりがあるような気がするからなのです。そんなわけで早速、ナルニア国物語『さいごの戦い』をのぞきにいきましょう。

『さいごの戦い』でナルニアは崩壊する

『さいごの戦い』は、1956年にイギリスの文学者C.S.ルイスが発表した作品です。全7冊の『ナルニア国物語』の最後を飾る作品であり、カーネギー賞を受賞したことでも有名です。

1巻から6巻を読むと、偉大なライオン王アスランが不思議の国ナルニアを誕生させたことや、イギリスから少年少女がたびたびナルニアにやってきて、様々な戦いや冒険に関わってきたことなど、ナルニアの歴史が全てわかりますが、ラストの第7巻では、そのナルニアが崩壊する様が描かれます。


真実へと至るための、暗黒の時代……

「さいごの戦い」は、一匹の毛ザルが、よこしまな陰謀を企てる場面から始まります。ロバにライオンの皮をかぶせてうまやの中に隠し、「アスランがうまやの中にいらっしゃる」という大ウソを、ナルニアの民たちに吹き込んで、巧みに信じ込ませます。

長年平和続きだったナルニアで、平和ボケをしていたナルニアの民たちは、よこしまな企てにひっかかってしまいました。毛ザルは、アスランの命令だといって、歩く木々を切り倒したり、ものいう馬を隣のカロールメン国に売り飛ばしたりと横暴をふるいます。

さらに、カロールメン国の悪い商人と共謀して、ナルニア国のチリアン王を襲い、木にしばりつけてしまいます。

絶望したチリアン王は、木に縛りつけられたまま、真のアスランに向かって大声で助けを求めます。

すると、その呼びかけに答えるようにやってきたのは、第4巻の『銀のいす』という本で活躍した人間界の少年少女、ユースチスとジルでした。二人は王の縄をほどいて助け、チリアン王と共に毛ザルをやっつけようと奮闘します。

けれども、毛ザルとカロールメンの悪い商人どもは、どんどん悪辣な計画を進めていき、状況は刻々と悪化するばかり。

しまいには、「アスランの命令」だといって、ナルニアの民達を一人一人、うまやに送りこもうとします。うまやの中にはカロールメンの悪者がいて、ナルニア民達を殺してしまう計画になっているのです。

それを防ごうとチリアン王は必死で戦おうとするのですが、「にせのアスラン」にすっかりだまされているナルニアの民達は、王の味方に付いてくれません。

チリアン王とユースチスとジル、そしてわずかな味方のみで、カロールメンの悪者たちと戦います。

ユースチスとジルは、まるで四十度の熱に浮かされたようになって気持ち悪くなりながら、剣をふるい、弓を放って戦うのですが、倒しても倒しても、敵は膨大に膨れ上がるばかり。どうやら、カロールメンから膨大な数の敵がやってきているらしいのです。

大勢の敵にわずかな味方とあっては、ナルニア軍に勝ち目はありません。一人、また一人と味方は倒されてゆき、ついには、ユースチスも、ジルも、敵に捕まって、うまやに放り込まれてしまいました。

そして、最後にたった一人残されたチリアン王は、自ら、うまやの中に飛びこみます。


闇の崩壊で知る、まことの世界

ところが、暗いうまやだと思ったその場所は、思いがけずに、明るく広い草原でした。

チリアンは、じぶんたちが、たて四メートル、よこ二メートルの小さな草ぶき屋根のうまやのなかにいるのだ、と思っていました。いや、思うひまがあれば、思っていたことでしょう。

ところがじつは、草の上に立っていて、青空が頭上にひろがっていました。顔にやさしくあたる風は、夏のはじめごろの感じでした。

ー 『さいごの戦い』より[1]

闇の崩壊で知る、まことの世界
明るく広い草原が広がる

その草原に、五人の人達がいます。それは1巻から6巻までの本に登場してメインキャストとして活躍してきた人間界の子ども達…ピーターやエドマンドやルーシィ、ディコリーやポリーでした。その人達はナルニアの綺麗な衣装を着て、そこに立っていたのです。

そして、チリアン王とユースチスとジルは、自分達がいつの間にか、戦いの汗と汚れにまみれた姿ではなく、ナルニアの宴会の時にまとうような服を着ていることに気がつきます。

その草原にうまやを思い当たらせるようなものはたった一つだけしかありません。それは、うまやの粗末な木の扉でした。

ただし、扉だけしかありません。壁も、屋根もどこにも何も見当たりません。広い夏の草原に、うまやの扉のみが、ポツンと立っているのです。けれども、ピーター達によれば、チリアン王とユースチスとジルは、その扉から、この草原に入ってきたのだといいます。

一同が不思議がって、その不思議な扉を眺めているところに、偉大なライオン王アスランが登場します。

アスランは、戸のそばにいき、一同はそのあとにつづきました。アスランが頭をあげて、うなりをあげました。

「時がきた!」そしてもう一度さらに大きく「時だ!」と叫びました。

それから、空の星々をふるわすほどの大声で、「時よ!」とほえました。戸は、さっと、開きました。

ー 『さいごの戦い』より[1]

子ども達が、開いた戸の向こうをのぞいてみると、そこにはチリアン達がさいごの戦いを行った夜のナルニアが広がっていました。そこに、アスランの呼びかけに答えて「時の翁」という巨人が現れます。

時の翁が、すさまじい美しさをもったひびきで角笛を吹き鳴らしますと、ナルニアの星はみんな消え、木々は倒れて岩だらけの世界になり、太陽はなくなり、ナルニアは凍りついた闇の世界となります。

ナルニアが崩壊したのです。そのナルニアの崩壊の様子は、恐ろしいほどの描写力でまざまざと描かれます。

こうして、ナルニアは死に絶えてしまいました。アスランに戸口をしめるように言われて、子ども達は戸口をしめます。

ナルニアがおしまいになってしまったことはとても恐ろしく悲しいことのはずでした。けれども、アスランは、ビックリするくらい、活き活きと明るい顔をしています。子ども達はそれをとてもふしぎに思います。


一同は、戸口ごしに、じつにふしぎなものを見てきましたが、いまあらためて、あたりをながめ、こちらが暖かい日ざしにあふれ、頭上には青空、足元には花々があり、アスランの目には笑いがやどっているのを見るほうが、はるかにふしぎでした。

ライオンは、すばやくむきなおると、からだをかがめて、しっぽでぴしぴしからだをうちながら、金の矢のように走っていきました。

「さあ、おいで、もっと奥へ! もっと高く!」

ライオンは、肩ごしにさけびました。けれども、それほど早く、だれがいっしょについていけるでしょう? 一同は、ライオンのあとを追って、西のほうへ出かけました。

ー 『さいごの戦い』より[1]

もっと奥へ、もっと高く進んでいく子ども達を、さらに不思議なものが待ち構えていました。

真実のナルニアは、まさにサマディーを描写

もっと奥へ、もっと高く進んでいった子ども達とチリアンは、驚くべき場所にやってきます。

ナルニアです。今さっき崩壊したばかりのナルニアが、とつぜん、みんなの目の前に現れ出てきたのです。一同は、驚愕し、どうしたことだろうと不審に思います。

でも、よく見ると、そこはナルニアとそっくり同じというわけではありませんでした。ずっと色どりがあり、ほんもの以上のすばらしさなのです。
やがて、これはどういうわけかのみこめたディコリーが、みんなにこう説明します。

あのナルニアは、(今さっき崩壊したナルニアは)まことのナルニアではない。

そこには、始めがあり、また終わりがあった。そこは、まことのナルニアの、ただ影の国、まぼろしの国、ひきうつしの国だったのだ。まことのナルニアは、つねにここであり、つねにここのまま変わることはないだろう。

さながら、わたしたちの世界、イギリスやあらゆる国々のある世界もまた、アスランのまことの世界の夢かまぼろしの国、影かうつしの国であるようなものだ。(略)

いうまでもなく、ここは(もとのナルニアと)ちがうところだ。ほんものが水の鏡とちがい、目をさましている時が、夢みている時とちがうように、ちがうのだよ。

ー 『さいごの戦い』より[1]

みんなは、まことのナルニアで、さいごの戦いを共にしてきた生き物達と出会います。それだけではありません。1巻から6巻までに登場してきたナルニアの王や王子たちや、数々の生き物達が残らず、そこに勢ぞろいしていたのです。

その中には、ナルニア誕生の瞬間に居合わせた天馬などもいます。ナルニアが誕生した瞬間から、ナルニアが崩壊するまでの間に生まれた良いものが全部、このまことのナルニアに引っ越してきていたのでした。

一角獣のたから石はこう叫びます。

あのナルニアをわたしたちが愛していたわけは、時々ちょっぴりここに似ているところがあったからだ。

フレー!ヒヒーン!

ー 『さいごの戦い』より[1]

けれども、全ての人がここに来られたわけではありません。ナルニアが崩壊した時、アスランを憎むものは全て、アスランの影にのみこまれて、どこかに消えてしまいました。

そしてまた、ナルニアで冒険してきた子ども達のうちの一人スーザンは、最終巻には登場してきません。スーザンは、大人になり、ナルニアを信じなくなったので、まことのナルニアに来ることができませんでした。スーザンはまだしばらく、影の国イギリスで生きていくことになるのでしょう。

そして、まことのナルニアに来た子ども達に、アスランは、あることを伝えます。子ども達はイギリスで鉄道に乗っている真っ最中に、突然、ナルニアに飛んできたのですが、その鉄道で事故にあい、すでに命を落としているのだというのです。

アスランは、やさしくこう言います。


あんたがたみんな、影の国で使うことばでいえば、死んだのだよ。

学校は終わった。休みがはじまったのだ。こちらは、もう朝だ。

ー 『さいごの戦い』より[1]

子ども達がたどりついた、まことのナルニア。それはまさしく、ヨガでいうところのサマディーにほかならないのでしょう。

真実のナルニアは、まさにサマディーを描写
真実のナルニアは、まさにサマディー

サマディーに到達した時、どんな世界が見えるのかということについては、『ヨガ・スートラ』でも何も語られていません。それは、とても地上の言葉では言い表せないような場所だと言われています。

もしも、サマディーに到達した時に見える世界を書き表したものがあったとすれば、このナルニア国物語の『さいごの戦い』なのではないかと私はそう思うのです。

はじまりもなく、終わりもないまことのナルニア。それこそ、サマディーの世界だと思えてなりません。


著者のルイスは、まことのナルニアを鮮やかに活き活きと、どんな人の魂もゆさぶらずにはおかない描写力で持って描きあげました。その素晴らしさは、他の作品では味わえないものでしょう。

ラストの深い感慨は、『さいごの戦い』だけ読んでも伝わらないかもしれません。やはり、1巻から6巻までを通して、ナルニアの始まりからずっと、その長い長い歴史を追ってきたからこそ、胸に響くラストであると思うのです。

長い物語を読む時間はないという方もいらっしゃるかもしれません。けれども一方で、新型コロナウイルスの影響でステイホームが叫ばれる今だからこそ、じっくりと本に向き合う時間ができたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

先が見通せないつらい今だからこそ、大人にも子どもにも、『ナルニア国物語』を読んでいただきたいなと、心から思います。

参考資料

  1. C.S.ルイス著、瀬田貞二訳『『さいごの戦い』岩波少年文庫、1986年

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