自尊心の在り方

“自尊心(シュラッダー)”の育て方!ヨガ哲学でもっと自分を好きになる

ヨガをすると自分にも他人にも優しくなれるワケ

ヨガの練習をした日は、何だか気持ちがいい。昨日までもやもやしていたことが、ちっぽけなことに感じたり、自分にも、周りの人にも温かく、優しい気持ちが不思議とわいてくる。

いつもより自分を好きと思える。満たされた感覚になる。そんな経験をしたことがある人も多いでのは?

そんな経験からも、感覚的に、自己肯定とヨガにはつながりがあるように思える。今回は、「ヨガと自己肯定感」について、ヨガセラピストであり、ヨガの本質を伝え続ける、森田尚子先生(以下、森田先生)にお話を聞いた。

ヨガの土台は自尊心

「ヨガにおいては、自己肯定感という言葉よりも、さらに意味合いの強い、自尊心が土台にあります。ヨガ哲学の中では、“シュラッダー”という言葉で表現され、ヨガの教科書とも言える、『ヨーガ・スートラ』ではとても大切に扱われています」と森田先生。

シュラッダーには強さがあり、究極的には、自分がプルシャである、と心から思える状態。

プルシャとは、本当の自分、真我。

『ヨーガ・スートラ』の背景にある、サーンキャ哲学では、プルシャ(本当の自分、真我)以外のすべてはプラクリティ(物質、自性、自然)で変わりゆくものと捉える。

プルシャ=“本当の自分”は質を持たず、あらゆる変化の目撃者であり不変の存在。

つまり、変わりゆくプラクリティに左右されることなく、いかに自分のことを受け入れ、信頼するかが、シュラッダーを育てていくのに大切なのだ。

自尊心と言っても、自分の所有物(体や顔、洋服、車、アイデアなど)の存在ありきで成り立つものはシュラッダーではない。それは結局「所有物に執着していること」になり、ヨガの本質とはズレてしまう。

誹謗中傷に関してもしかり。他人を非難することで自分が上に立ったような感覚になり、自己肯定感を味わう。しかし実際は、自分自身は何も変わっていないのだから、そうして得られる自尊心は、いわば幻。本当の意味での自尊心、シュラッダーを育てることにはならないのだ。

どうしてシュラッダーが大切なのか

ヨガでは土台とまで考えられているシュラッダー。なぜ、シュラッダーはそれほどまでに重要なのだろうか?

「シュラッダーが強いほど、ヨガのゴールに早くたどり着ける」と森田先生は話す。

ここで言うヨガのゴールとは、本当の自分の役割を理解し、自分の力、才能を思いっ切り開花させること。

自分があまり好きではないことは、なかなかヤル気が出なかったり、成果を出しにくい。しかし、自分の好きなことであれば、自分の中に矛盾がなく、体の底からパワーが湧いてくる。

このパワーの源こそ、シュラッダー。好きなことをして、自分らしく生きているという肯定的な感覚は、自分のシュラッダーが強い証拠であり、ヨガの一つのゴールにより近いと言える。

シュラッダーはどうやって育てればいい?

言葉で表現するのは簡単だけれども、実際に行動に移すのは簡単ではない。ヨガをしたり、日常生活を送る中で、シュラッダーを育てるにはどうしたらいいのか。

ヨガの練習で自分との信頼関係を作る

ポーズの練習はシュラッダーを育てるのに特に効果的。毎日練習すると決め、その自分との約束を守って練習することは、自分との信頼関係を育ててくれる

またヨガの練習を続けるというだけではなく、ヨガならではの特性も効果的だ。

気持ちいいなあとか、今日は騒がしいなあとか、自分の内側の感覚を大事にして、幸せだな、好きだなというポジティブな感覚を育てていくことが、シュラッダーを育てる上でとても大切。

これをしたらシュラッダーが強くなるかも、自分を好きになれるかもと天秤にかけるのではなく、幸せな感情、気持ちのいい感覚を自分の中で生み出せる、そしてそのことへの気づきがシュラッダーを育てることにつながるのだ。

自分、他人との快適なかかわり方

ジャッジ
ジャッジは苦しみのもと

他人とのかかわりや、自分との向き合い方が私達の自己肯定感に与える影響は大きい。『ヨーガ・スートラ』には、人間関係に関して「マイトリー」、「カルナー」、「ムディタ」、「ウペクシャー」という四つの考え方が出てくる。

「マイトリー」は、ハッピーな人がいたら、その人のそばにいましょうという教え。

「カルナー」は、苦しい人がいたら思いやり、慈悲の心を持ちましょうという教え。

「ムディタ」は、行いが素晴らしい人がいたら、感謝の気持ちを持ちましょうという教え。

そして、「ウペクシャー」は、行いがよくない人がいたら、悪いというジャッジをせずに距離を置きましょう、という教え。

自分に対して置き換えると、ハッピーであればその幸せを認め、苦しかったら自分に思いやりの心を持つ。自分の行いがよければ、よくやったなあという気持ちを持ち、行いがよくない時はいい悪いのジャッジをしない。

他人に対しても、自分に対しても、この考えを持つことは、シュラッダーを育てることにつながる。

特に、「自分でいい悪いを勝手にジャッジして、責めてしまうことはシュラッダーの妨げになる。ヨガはそのジャッジをなくすためのツールと言える。」

すぐに思考の癖を変えるのは難しいが、まずは自分を客観的に見るという意識を持つことから始めたい。

サントーシャの考え方

『ヨーガ・スートラ』の八支則にあるニヤマの一つ、サントーシャ。「足るを知る」と訳されることも多いが、本来は「あなたはすべて持っていますよ」という意味。

つまり、私達はプルシャであり、完全体。だから他人と比較して、「あれがない、これが足りない」と思うこと自体、「本当の私=プルシャ」を、心と肉体とに同一視していることになる。それは最大の無知である、と『ヨーガ・スートラ』では解く。

「自信がない、というのは幻。それは記憶からできているアイデンティティーなんです」

過去の経験により、無意識にいい悪いを判断し、足りないところばかりに目が行きがちだが、このサントーシャの心構えを日常で意識したい。

ヨガの教えを人生に還元する

ヨガ哲学では、それありきで話が進むほど土台となる自尊心、シュラッダー。

生きていくうちに無意識に持ってしまうジャッジによって、私達は自分を苦しめる。過去に積み上げてきたものをすぐに手放すことは難しいが、ヨガ哲学の教えを日常で大切にできれば、少しずつでも、自分の中のシュラッダーは育っていくだろう。

ヨガの智慧を借りながら、生きる力となるシュラッダーを大切に育て、本当の意味で、自分らしく生きていきたい。

******************

今回、「自尊心との向き合い方」、「ヨガの本質」について教えてくれた森田尚子先生が、ヨーガ・スートラチャンティングクラスを開催中。

YouTubeのライブ配信で、ヨーガ・スートラをサンスクリットで詠唱する貴重な機会です。申込不要で無料なので、ぜひ気軽に参加してみて下さい!

森田尚子
ヨーガセラピスト。クリシュナマチャリアのヨーガ正式指導者で、ヴェーディック・チャンティング正式指導者。定期的に渡印しヨーガ(瞑想)、ヴェーダ哲学、ヨーガセラピー、アーユルヴェーダを追求。ヨーガ指導者の育成、ヨーガ(瞑想)・ヴェーディックチャンティング指導、ヨガスタジオディレクター、ヨーガ専門誌監修、ヨーガや瞑想講座の講座開発などを行う。

イラスト=macco
文=Yogini編集部