健康への考察1 〜誰もが願っているけれど、本当の健康ってどういう状態?〜

健康への考察1 〜誰もが願っているけれど、本当の健康ってどういう状態?〜

体温を毎日測るのはいつ以来でしょうか?コロナ禍の今、誰もが自らの体調や健康に目を向け続けています。これほどまでに全世界が同時に健康というものに目を向けているのはかつてないことではないでしょうか。

健康を改めて考えてみると、人それぞれに感じ方が違うものです。元気であるという意味で捉えている方から、病気ではない状態と捉えている方もいます。

また、個人の心身の状態というものから、企業や国家の健康の戦略といった経営の文脈で語られるものあり、健康とは多義的なのです。

闇雲に健康を願うことは、かえって不調を招く!?

闇雲に健康を願うことは、かえって不調を招く!?
闇雲に健康を願うことは、かえって不調を招く!?

今現在、強制的にといってもよいくらい皆の目が健康に向いています。

WHO(世界保健機関)は1946年7月に採択した憲章で、「健康とは病気がないとか弱っていないというだけではなく、肉体的、精神的、社会的に完全に満足な状態であること」と定義しています。

けれども、すべて満足な状態を目指すことは、到底難しいというのは明白です。年齢を重ねれば関節痛や肩こりなどは常態化していきますし、がんを患いながらも元気にお仕事をしている方も多数いらっしゃるのです。 

また、「満足な状態」を健康観として維持していると少しの不調が不安の火種となり、なにか大きな病気なのではないかと過度に不安が強まってしまう方も多く見受けられます。

新型コロナウイルスが流行し身体不調を訴えられた方の中には、CTやPCR検査を受けても問題はなく、不安が顕著となる方もいらっしゃいました。

このWHOの憲章が採択された74年前の1946年は第二次世界大戦の終戦直後です。統計が確認できる翌年の1947年の日本人の死因をみると…

  • 1位:結核
  • 2位:肺炎
  • 3位:胃腸炎

と、感染症が上位を占めていました。また平均寿命は男性50歳、女性54歳です。

対して直近の2018年の統計では…

  • 1位:悪性新生物(がん)
  • 2位:心疾患
  • 3位:老衰

昨今の高齢化や慢性疾患の増加を反映する統計です。心疾患などは基礎疾患に高血圧などの慢性疾患があることが多いのです。ちなみに平均寿命は男性81歳、女性87歳と実に30歳ものびているのです。

医療に起こるパラダイムシフト〜キュアからケアへ〜

医療に起こるパラダイムシフト〜キュアからケアへ〜
医療はキュアからケアへ

疾病構造も変化する中、医療にもパラダイムシフトが起こりつつあります。医療の中の「キュアからケアへ」という変化です。

平成27年6月、厚生労働省は「保健医療2035提言書」の中で、2035年までに必要な保健医療のパラダイムシフトのひとつとして、「キュア中心からケア中心へ」を挙げています。

そこには……

疾病の治癒と生命維持を主目的とする「キュア中心」の時代から、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す「ケア中心」の時代への転換

を図ることが掲げられています。

キュアとは一般的には疾患を治療により治すもので、今までは医師が多く担ってきました。ケアは病に悩む患者に対し、全人的なアプローチをするもので、今までは看護師が担ってきたといわれています。

かつての医学は病気を除去する学問・技術だった……

かつての医療は、病気と対決する学問であり、技術でした。個人のなかに病気を見出し、診断を下し、治療を行い、健康な状態に回復させるのです。

つまり個人に生じた「マイナス」としての病気を除去して、元の状態、すなわち「ゼロ」に戻すこと。それが医学の基本的な役割だったのです。

しかし、先程もみたように慢性疾患が増えている現代、キュアが病からの完全な回復を意味するならば,慢性疾患の多くはキュアが望めないことになります。

ここで身体的・精神的・社会的な意味をも含めた健康を保つ、「ケア中心」という考えが注目を集めるのです。

筆者もかつて病院でキュアを担うばかりでした。言ってみれば入院してきた患者さんのマイナスの状態をゼロにして退院を促す仕事です。医療政策により入院医療は短期化が促され、以前であればもう少し入院してゆっくり治療ができたのがそれも叶わなくなっています。

外来を担当しても診察室のキュアだけでは患者さんの生活の質をあげることができない。健康を保つケアが必要である

これは長らく筆者の問題意識でした。

そのような中でヨガに出会いました。ヨガの効果を自ら実感し、これを臨床で実践したいと考えていたことから2019年、クリニックをオープンする際、ヨガスタジオを併設するにいたりました。

ヨガジェネレーションでも医師によるヨガ講座が多数開催されています。

キュアからケアへの流れは前回ご紹介した友永乾史先生のアルコール依存症の断酒のキュアにヨガが組み込まれていることにも見て取れると思います。

コロナ禍の「運動不足とアルコール依存症」との向き合いかた

医療にキュアからケアへのパラダイムシフトが起きている現在、さらにヨガへの期待が高まるのではないかと筆者は考えています。

参考資料

  1. 保健医療2035(平成27年6月)
  2. 斎藤環『人間にとって健康とは何か』(PHP新書、2016年)