リハビリの現場にも活きる、“ハタha-tha”の考え

リハビリの現場にも活きる、“ハタha-tha”の考え

どこのヨガスタジオでも必ず行われている「ハタヨガ」のクラス。ハタヨガの「ハタ(hatha)」とは、「ハ(ha)」が“太陽”、「タ(tha)」が“月”を指します。ヨガには「結ぶ」という意味がありますので、太陽と月のように相反するものを結ぶのが、「ハタヨガ」とも解釈できるかもしれません。

私は長年、外来整形外科のリハビリの現場で働いていますが、このハタの考えは“リハビリにも活かせる”ことを実感しています。今回は、その理由について書きたいと思います。

※ハタヨガについては「ヨガウィキ」も参考にしてみてください。

ハタヨガ

世界は、対極するものの調和で成り立っている

世界は、対極するものの調和で成り立っている
世界は、対極するものの調和で成り立っている

世の中には対極するものがたくさんあります。「良い」と「悪い」、「プラス」と「マイナス」、「光」と「影」、「生」と「死」……。これらは、どちらか一方に偏ってしまえば世の中のバランスが崩れてしまい、何かしらの歪みが生じます。

例えば、光は多くの生命に力を与えますが、光だけだと影を好む生き物にとっては非常に生きづらい世の中になるでしょう。対極するもの同士が天秤の上で自然に上手くバランスを取っているのが、本来あるべき姿といえるでしょう。

人の身体も、対極する機能に支えられている

人間の身体にも対極するものがたくさんあります。呼気があれば吸気があり、交感神経があれば副交感神経があり、屈曲があれば伸展があり、外転があれば内転があり、主働筋があれば拮抗筋があり、筋収縮があれば筋弛緩があります。

これら対極するもの同士が上手くバランスを取りながら、人間本来の健康状態を保っています。いわゆる恒常性機能(ホメオスタシス)の考えに近いかもしれません。

このバランスを崩すものが、ストレスです。ストレスは自分以外の外部から身体的、心理的に負荷をかけていきます。

自然界には必ずストレスがあますが、許容範囲内のストレスであれば恒常性機能で上手くバランスを保つことができます。しかし、ストレスを受け続けると恒常性機能が低下。心理的、身体的なアンバランスが生まれ心身の不調を訴えるようになります。

過剰なストレスによりリラックスした呼吸ができなくなったり、常に筋肉が緊張していたり……。このように自律神経のバランスが乱れ、交感神経系が優位になっている人をリハビリの現場でもよく見受けるのですが、そうした人にハタの考えを活かすことができるのです。

ハタの考えを応用すると、リハビリ効果が向上する

ハタの考えを応用すると、リハビリ効果が向上する
ハタの考えを応用すると、リハビリ効果が向上する

例えば、筋肉が過剰な緊張により痛みを出している場合、問題のある筋肉をストレッチして伸長させるだけではなく、収縮も促してあげます。伸長と収縮を丁寧に繰り返すことで筋肉本来の適正な柔軟性へと誘導できるからです。

買ったばかりの粘土は硬いですが、伸ばしたり、固めたりしながらこねることで、適度な固さにすることができるのと、原理は似ています。

リハビリには「ホールドリラックス」という手法があります。これは伸ばしたい筋肉を最大収縮させた後に筋肉が弛緩するメカニズムを利用した関節可動域を増大する治療法です。最大収縮させて弛緩させる。対極のものを融合させるこの手法、ハタのイメージに近いものを感じませんか?

筋肉以外にも、股関節伸展可動域が制限されている人は股関節伸展方向へのアプローチとともに、股関節屈曲の動きも取り入れる。呼吸で呼気が優位になっている人には、吸気とともに、呼気の仕方も修正をする。

つまり、求めている方向へ誘導するだけでなくあえて対極する方向へも誘導することでバランスが取れるポイントを見出しやすくなるわけです。

このように「ハタ」の考えを取り入れて、人間の身体を支える対極する機能同士のバランスを整えることで、本来の状態へと導いてあげることができます。

中には加齢、骨折などの要因で骨が変形し関節可動域が制限されている人もいますが、そういうときにも、「ハタ」の考えを参考にして「その人にとってバランスの取れた姿勢」を筋肉の収縮-弛緩、脊柱の屈曲-伸展などの対極する動きを行いながら見つけていきます。これはヨガに出会えたからこその思考だと思います。

リハビリの現場でなくてもヨガレッスンのプログラムを組み立てる時や自宅で練習を行う時もこの対極する動きを意識してみてください。ヨガの効果が向上するのを感じられるはずです。