行動の習慣化が難しい理由と対策!

練習続けてる? 心理学で解説:行動の習慣化が難しい理由と対策!

医師として患者さんに禁煙を指導したり、メタボな人に生活全般の指導をしたり、ヨガインストラクターとして運動全般の指導をする機会が多々あります。しかし良かれと思っておススメすることが、人に定着しない事態にしばしば遭遇します。更には、我が身を振り返ってみて、やった方が良いと分かっていることを習慣化できないこともあります。

合理的にみて、病的に太っているよりはある程度スリムな方がいいですし、禁煙は1日でも早く始めた方が先延ばしするより良い事は自明です。そして定期的な運動習慣があるほうが良い事は、多くの人にとって改めて説明する必要はないでしょう。

でも実際には皆がこうした合理的判断ができるわけではありません。何故なのでしょうか?

また、ヨガインストラクターさんでも「ヨガを続けて欲しい」と願うけれど、続かない生徒さんが多く悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか? ヨガクラスでどんな工夫ができるでしょうか?

将来的なマイナスのインパクトは感じにくい

ネガティブ・マイナスな出来事が自分にふりかかるとは想像し難いのが現実
ネガティブ・マイナスな出来事が自分にふりかかるとは想像し難いのが現実

一つには将来的なマイナスのインパクトが現時点ではあまり感じられないという事が大きいです。

  • 高血圧の改善予防のための減塩
  • 糖尿病における血糖コントロール
  • 早期の禁煙
  • メタボな人の減量などと生活指導
  • 適度な運動

どれもすぐには命に関わる副作用が起きないことが多いです。しかし将来的に多くの方にとって、これらが悪影響を及ぼす可能性が高い事はもう分かっていることです。

でも、なかなか我が身に降りかかることとは考えられません。

「自分は大丈夫」と思い健康的な選択ができない

例えば、長期にわたる喫煙の結果、肺気腫を患ったあとに先日他界した桂歌丸師匠は、肺気腫になってから禁煙し、禁煙の啓蒙活動に積極的に貢献されました。また、お笑い芸人の松村邦洋さんは、メタボリックシンドロームでしたが、東京マラソンに参加して、レース中に心筋梗塞を起こした後にダイエットに勤しみ、有名な民間企業のダイエットプログラムに参加されたりして、世の中の人に健康である事の大切さを間接的に示しています。

このように、たとえ才能溢れる存在であったとしても、「自分は大丈夫」と思ってしまい健康的な選択を出来ない事は、人間である以上起こり得ます。医師である私にも、そしてこの記事の読者である皆さんにも、誰にでも起こり得ることです。

「自分は大丈夫」と過信するのは認知バイアス

これは認知バイアスという現象で一部説明出来ます。認知バイアスとは、簡単に言えば考え方の偏りで、様々な種類があります。

例えば、ある現象に関して自分に都合のいい情報のみ集めたり、上に書いた「自分は大丈夫」と過信することも認知バイアスです。

具体的な例を挙げると、禁煙の必要性を人から指導された時に、隣の家に住んでいる90代でタバコを今でもプカプカ吸っている元気なおじいさんを引き合いにして、禁煙をしない、ということです。または、インターネット等で自分に有利な情報ばかり検索して安心したりなどといった姿勢です。

認知バイアスがなくても新しい習慣づくりは困難

しかし、喫煙者が禁煙にシフトしたり、メタボな人がダイエットに勤しむなどの、行動変容(これまでとは違った新しい行動を起こすこと)はこうした認知のバイアスがない方でもなかなか進みませんし、新しい習慣を維持する事は本当に難しい事です。

心理学教授であるジェイムス・オー プロチャスカは下記のように主張しています。[1]

人間の行動変容の5STEP
人間の行動変容の5STEP

人間の行動変容には段階があり、

  1. 無関心期
  2. 関心期
  3. 準備期
  4. 実行期
  5. 維持期

に分かれる

各期を説明すると、下記のようになっています。

  1. 無関心期:問題に気づいていないか認知バイアスなどで過小評価や、無かったことにしてしまう時期
  2. 関心期:問題に気づいているけれども、まだ行動に移す準備が整っていない段階
  3. 準備期:実際に行動変容に向けて準備し始める段階。例えばメタボな人がランチの大盛りご飯を試しにやめてみたりする段階

ここに至るまでも相当大変な事は、ここまで読んでこられた皆さんにはもう、お分かりの事だと思います。そして実行期になってやっと本格的にダイエットや禁煙などの行動変容になりますが、その後に維持期があります。

維持期の大切さはみなさん身にしみていますね。私もリバウンドという、ダイエット界の魔物との戦いに敗れる事が多々あります。喫煙に関しても、禁煙の実行と維持が難しいという点に関して報告は沢山あります。{2]

維持のために必要なのは、管理の目

新しい行動を維持するときのポイントとして、一つにはやはり人の目が大切であり、特に短期間に過酷な制限をかける生活をした場合には、その後一人でその生活を維持することが甚だ難しい事は容易に想像がつくと思います。

例えば、テレビでやっている、短期間に栄養士やトレーナーがついて徹底的に管理された状態で行う減量。それから、生活指導のために教育入院をした場合。こうした場合、一人でその後頑張り続ける事は相当な労力を要するであろうことは想像がつくと思います。一緒に支えてくれる家族や友人の力が必要になります。むしろ監視、管理の目が緩くなってからが本当の戦いです。

個人の力には限界があります。ですから支え合うコミュニティの力がとても大切になってきます。

ヨガインストラクターがヨガクラスでできること

ヨガ指導者ができることは、居場所を作ってあげること
ヨガ指導者ができることは、居場所を作ってあげること

今回は皆さんに新しい行動をおこすスタート地点に立つことの難しさ、そしていざ行動に移した後に維持する事の難しさについて簡単にお伝えしました。この事実をふまえて、みなさんヨガインストラクターとしてどのように人々に健康的な生活習慣を身につけて行ってもらうように行動したらいいでしょうか?

まずは、普段のレッスンで見かけない顔の人に声を必ずかけてあげてください。友達に無理矢理連れてこられただけかもしれません、はたまた意を決して準備期から行動期に乗り出した方かもしれません。

彼ら、彼女らがその後ヨガを通じた健康習慣を身につけられるかは、皆さんにかかっている部分が大きいと思っています。

具体的には、常連さん以外が入っていきやすいスタジオの雰囲気づくりがとても重要になるほか、一度足を踏み入れてくれた人たちの居場所を作ってあげることが必要です。

ヨガスタジオに熱心に通ってくる人の為は当然として、なかなかスタジオに来れない方や、やっとの思いで参加された多くの方々の健康のためにみなさんが果たす責任と役割はみなさんが思っている以上に大きいと私は考えています。

参考資料

  1. Prochaska JO, DiClemente CC, Norcross JC. In search of how people change. Applications to addictive behaviors. Am Psychol. 1992;47:1102–14. [PubMed]
  2. Twyman L, Bonevski B, Paul C, et al. Perceived barriers to smoking cessation in selected vulnerable groups: a systematic review of the qualitative and quantitative literature. BMJ Open 2014;4:e006414 doi:10.1136/bmjopen-2014-006414[PMC free article] [PubMed]