ヨガ講師を長く続けるためのワーク・エンゲイジメントの高め方

ヨガ講師を長く続けるためのワーク・エンゲイジメントの高め方

心の声に耳をかたむけていますか?

皆様、仕事から活力を得ているでしょうか?
仕事に熱心に取り組んでいるでしょうか?
自らの仕事に誇りを持っているでしょうか?

自身で選んだ仕事なのに、なんだかこの頃楽しくない、それどころか疲れ果ててしまっている。そんな状態になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は、企業が取り入れるようになった“職場のメンタルヘルス”で、注目を集めるワーク・エンゲイジメントについて、ヨガの先生の幸子さんの例を通じて皆様と考えてみたいと思います。

大好きなヨガの仕事でバーンアウトしてしまった幸子さん

ある日、ヨガの先生をしている幸子さん(仮名)が筆者のクリニックに相談にいらっしゃいました。

幸子さんは28歳。大学卒業後OLをしていた23歳のときに運命的にバリ島でヨガに出会い、それ以降ヨガを学びはじめました。ヨガを深めるうちにヨガを仕事にしたいと考え、指導者養成コースに入学します。

卒業後、しばらくはOLとヨガの先生の二足のわらじを履いていましたが一昨年、26歳の頃に思い立って本格的にヨガの先生になったのです。

もともと真面目で明るく、周りの人の期待に応えようとする優しい性格の幸子さん。ヨガの先生となった当初はとても楽しく、ヨガを仕事にできた喜びに満ち溢れ、いきいきと仕事をしていました。

幸子さんのクラスは生徒さんからも評判で、徐々に人気を博していきます。

ところが同僚が産休に入ったことがきっかけで、週に15本もクラスを持つようになって以降、体力的な負担を感じてはいましたが、周囲の期待に応えようと力を振り絞ってがんばるように。

以前は職場に朝から行きたくでしょうがない、ヨガのクラスをするとワクワクする!そんな状態でしたが、いつしか義務感から仕事へ行くようになりました。他の人も頑張っているのだから、自分だけ怠けるわけにはいかない。そんな風に、自らを奮い立たせて。

次第に、疲れすぎて夜も眠れない、という日が多くなっていきます。食事も喉を通らず1日バナナ1本ほどしか食べられません。クラスでも考えていたシークエンスがとっさに思い出せなくなってしまうこともあり、自信を喪失。

挙句の果てには、生徒さんの数も少なくなります。日常からは笑顔が消え、帰宅すると泣いてしまうことも増え……。

そんな幸子さんを見て、心配した家族のすすめでメンタルクリニックを受診することにしました。

受診時は疲労感が色濃く、顔色も不良の上、気分の落ち込みも認められましたので、まずは何よりも休養が必要である旨をお伝えしました。そして、幸子さんは職場をしばらく休むことを決意。薬物療法と心理療法を開始し、数ヶ月ほどすると改善されました。

楽しく、生徒さんに喜びを与えていたヨガの仕事が、徐々に負担になっていった幸子さん。今では仕事を少しセーブして自分のためのヨガを楽しむ日々を送っています。

※個人が特定されないよう、情報は一部、改変しています

ワーク・エンゲイジメントとは

オランダのウィルマー・シャウヘリ教授は、仕事におけるポジティブな感情としてワーク・エンゲイジメントに着目する必要を唱えました。

シャウヘリ教授によればワーク・エンゲイジメントは次の3つの側面があります。

  • 仕事に誇り(やりがい)を感じていること:熱意
  • 仕事に熱心に取り組んでいる状態:没頭
  • 仕事から活力を得ていきいきしている状態:活力

この3つが高い状態をワーク・エンゲイジメントが高いと表現します。ワーク・エンゲイジメントが高まると、仕事の生産性が向上する他、人の健康や幸福にも良い影響を与えることが研究によりわかってきています。

ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズム

ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントの概念
※参考資料:『健康いきいき職場づくり』川上憲人、島津明人(生産性出版、2014年)

ワーク・エンゲイジメントを考えるときに上記の図のように、関連する概念と対比してみると明確になります。

ワーカホリズムは「仕事から離れた時の罪悪感や不安を回避するために仕事をせざるをえない」といった切羽詰った感覚に対し、ワーク・エンゲイジメントは「働くことが楽しい!」とポジティブな感覚で仕事に取り組んでいる状態です。

ワーカホリズムとワーク・エンゲイジメントは、活動水準がプラスの領域にあるので同じような傾向を持つように見えますが、仕事に対する内発的な動機づけの有無で大きな相違点があります。

動機づけとは行動をスタートさせ、その行動を目標に向けて持続させる働きのことを言います。このうち内発的な動機づけとは賞罰の有無にかかわらず、自分自身の内的な好奇心や関心によってもたらされる動機づけのことを言います。

ワーカホリズムは外発的な動機づけでやらなくてはいけない(I have to work)状態にあり、ワーク・エンゲイジメントは内発的な動機づけ(I want to work)の状態にあるといえます。

ワーク・エンゲイジメントとバーンアウト

燃え尽き症候群という名でも知られている「バーンアウト」
燃え尽き症候群という名でも知られている「バーンアウト」

ワーク・エンゲイジメントと対極に位置するのがバーンアウトです。「燃え尽き症候群」という名でも知られている心理状態で、仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊して抑うつ状態に陥り、仕事への興味・関心はもちろん、心身の健康を低下させた状態と考えられています。

ワーク・エンゲイジメントが高い方は「仕事が楽しい」と思い、いきいきしているのに対して、バーンアウトしている人は、仕事で疲れ切って「仕事が嫌」になってしまっています。

幸子さんのケースで考えてみると……

当初は仕事から活力を得ていきいきとしており、ヨガを仕事にできた喜びと誇りを持っていました。まさにワーク・エンゲイジメントが高い状態だったのです。

しかし、週に15本もクラスを持つようになると、オーバーワークとなり義務感から仕事をするようになりました。それでも奮い立たせて、周りの人も頑張っているのだからと努力します。ワーカホリックな状態です。

そういった状況は長くは続きません。体も心も無理をしているからです。次第に消耗し疲弊し、自信を喪失していきます。まさに、燃え尽き症候群(バーンアウト)となってしまいました。

元来、真面目で他の人を気遣う幸子さんは、適切な仕事量を超えて多くのクラスを引き受けてしまった結果、バーンアウトし、抑うつ状態となってしまいました。

当時のことを振り返って、幸子さんはこう言います。

今では限界がわかりました。本来ヨガをやり始めたときは自分との対話ができていたけれども、あの当時は自分との対話ができていなかったのです。

だから限界がわからず、「もっとやれる、もっと頑張れる」と自分を追い込んでしまいました。

自分のプラクティスを再開し、徐々に回復をしていく幸子さんの力強さには目をみはるものがありました。「自分の限界を知る。そのためには自分の心と体の声に耳を傾ける。」仕事を続ける上でこれほど大切なことはありません。

そして、それらができるからこそ、仕事にエンゲイジメントができるのだと思います。

あなたのワーク・エンゲイジメントは、いかがですか?

参考資料

  1. 川上憲人、島津明人『健康いきいき職場づくり』(生産性出版、2014年)
  2. 川上憲人『働く人のポジティブメンタルヘルス』(大修館書店、2019年)