ヨガで骨折や視力障害に!?世界で報告されたヨガに関する有害事象まとめ

ヨガで骨折や視力障害に!?世界で報告されたヨガに関する有害事象まとめ

ヨガで骨折や視力障害、脳卒中を引き起こす——嘘のような話ですが、これはすべて実際に起こった事例。緩やかな動きしかないヨガは安全、と妄信するのは危険です。

世界中で報告された、ヨガによって引き起こされた、もしくは悪化してしまった病気や怪我にはどのようなものがあるのでしょうか? 今回は、それらを探りながら、特に注意するべき持病やポーズについて紹介いたします。

ヨガはスポーツとは違うから安全ってホント?

ヨガはスポーツと違って穏やかな動きが多く、安全に行えると考えられがちですが、この認識を疑問視する声も多くあります。日本よりもひと足早くヨガの大ブームが起こったアメリカでは、2012年に発行された『New York Times』で「ヨガはどのようにしてあなたの身体を壊すのか?1)という記事が掲載されました。ヨガは安全だと思っている方にとっては衝撃的な内容でしょう。記事内には下記のような怪我や病気の例が紹介されています。

  • 上向きの弓のポーズで脳卒中を引き起こした
  • 肩立ちのポーズで視力障害を起こした
  • ダウンドックでアキレス腱を切った
  • 長時間のヴァジュラアーサナで歩く、走ることができなくなった

参考:New York times

このような事例に陥らないためには、どのような点に注意したらいいのでしょうか?具体的な報告とともに、見てきたいと思います。
  

世界で報告されたヨガに関する有害事象(AE)

ヨガの有害事象に関してまとめた研究報告によると、世界中のヨガに関する有害事象に関する症例報告は76症例ありました。2)(2013年2月まで)
参考:NCBI

有害事象(AE)とは

医薬品などを投与された被験者・患者に生じる、医薬品投与と時間的に関連した、好ましくない、または意図しないあらゆる医療上の事柄のことを指す医療用語です。ここでは、ヨガによって身体に生じた、好ましくない事象すべてを指します。ヨガとの因果関係があるかどうかは問いません。

どんな人に頻繁に有害事象が報告されたのか

まずは、報告された症例の中で、もともとの持病が悪化してしまった例を紹介します。特定のアーサナや呼吸法を行い、症状が悪化した例は「注意:○○」と記載します。

  • 緑内障(3例)
  • 骨粗鬆症(3例)
  • 注意:前屈
    ※ヨガで前屈することで、骨折してしまった例です。

  • 喘息(1例)
  • 注意:呼吸法

  • 躁病(1例)
  • 注意:瞑想

これらの病気を患っている方がヨガを行うと、必ず症状が悪化することを示すものではありません。ただし、このような持病のある生徒さんがいらっしゃる場合、特に注意が必要だといえるでしょう。

どんな有害事象が最も多く報告されたか

次に、頻繁に報告された有害事象ランキングを見ていきましょう。

  1. 骨格筋系(27例)
  2. 骨折、靭帯断裂、関節損傷など

  3. 眼に関する有害事象(9例)
  4. 急性緑内障、慢性緑内障など

  5. 頭痛(7例)
  6. 末梢神経障害(4例)
  7. 脳卒中(3例)

やはり、骨格筋系の有害事象が多く報告されています。一方、眼に関する有害事象が続くのは、意外に思われるかもしれません。このランキングからわかる、気をつけるべき病気やポーズも解説しましょう。

注意が必要な病気やアーサナ

注意が必要な病気やアーサナ
注意が必要な病気やアーサナ

病気

  • 緑内障

有害事象ランキングでも上位にランクインした緑内障は、眼圧が上昇し視神経に損傷を与える病気です。失明原因の第1位であり、なんと40歳以上の20人に1人が患っている病気3)です。

一般的に、心臓より頭が下になると眼圧が上がりやすくなる(=緑内障が悪化する)といわれています。したがって、ヨガでは心臓より頭を下にするポーズは避けることがポイントです。

参考:日本眼科学会

  • 骨粗鬆症

骨粗鬆症は骨量が減少し骨折しやすくなる病気です。閉経後の女性は、女性ホルモンの低下により発症しやすく、60代女性の3人に1人は罹患しているといわれています。4)普通なら問題のない衝撃や動き等でも、骨折するリスクがあり、特に椎体(背骨)・大腿骨(太ももの付け根)・橈骨(手首)が骨折しやすくなっています。

骨粗鬆症の人は、ヨガの緩やかな動きでも骨折する可能性があります。特に前屈で椎体(腰骨)の圧迫骨折に繋がった例が報告されていますので、注意しましょう。

アーサナ

  • 「ハンドスタンド」や「肩立ち」など上級者向けポーズ

有害事象は、初心者に限定された問題ではありません。先の研究で報告された76症例のうち3例は、ヨガインストラクターに引き起こされています。ハンドスタンドや肩立ち等、上級者向けのポーズの練習が有害事象に繋がるケースもあるのです。また前述の研究報告によると、肩立ちを練習した3人のうち2人、ヘッドスタンドを練習した10人のうち8人が眼に関する有害事象(主に緑内障)を引き起こしています。

倒立を行うと眼圧は2倍にあがる5)という報告があります。通常、倒立を辞めると眼圧は下がり、緑内障を引き起こすことはありませんが、緑内障を患っている方や緑内障の家族がいる方は行わないようにしましょう。

  • 首を伸ばすポーズ

首に負荷がかかるポーズは、まれに脳卒中を引き起こすことが報告されています。6)首には、脳に血を送る大事な血管が通っています。この血管を守るため、首に負荷がかかり過ぎないように配慮することも重要です。

ヨガでの脳卒中は、高齢者などリスクが高い方のみ注意が必要というわけではありません。冒頭で紹介した上向きの弓のポーズ(ブリッジ)で脳卒中を引き起こしたのは、なんと28歳の健康な女性です。頭をマットにつけたブリッジを行っていた最中、ずっと首が曲がり過ぎていたことが原因ではないか、といわれています。6)

リスクを知って安全にヨガを楽しもう

ヨガによる有害事象と、それを踏まえたヨガの注意点を紹介してきましたが、いまや世界中で約3000万人ものヨガ人口がいるといわれる中、有害事象に関する症例報告が76症例というのは、極端に多い数字ではないと思います。重要なのは、こうしたリスクを知った上で、安全にヨガを楽しむということではないでしょうか?

リスクを知れば、対策を講じることができます。その一つがカウンセリングシートで生徒さんの病歴を把握することです。その際、緑内障や骨粗鬆症など、特に注意して確認したいですね。

カウンセリングシートで生徒さんの病歴を把握する
カウンセリングシートで生徒さんの病歴を把握する

生徒さんによっては「緑内障とヨガは関係がない」と思って申告しない方もいらっしゃるかもしれません。空欄に書いてもらうのではなく、予め特に申告してほしい病気を記載しておいて、○をつけてもらうような書式の方が確実かもしれません。

骨粗鬆症は、骨折するまで罹患していることに気づいていない方も多い病気です。骨粗鬆症と記載している人がいなくても、60代以上の女性がいらっしゃった場合は、3人に1人は骨量が低下していることを念頭に置くといいでしょう。

また、持病を持っていない方でも肩立ちやヘッドスタンドなど逆転のポーズ群、首に負荷がかかるポーズは特に注意が必要です。

人と比べず、決して無理をせず、自分に合ったヨガ、生徒さんに合ったヨガを安全に楽しめる環境を作っていきましょう。

参考資料

  1. Broad WJ (2012) How yoga can wreck your body. The New York Times. 5 January 2012.
  2. Cramer H et al, PLoS One, 8(10),2013
  3. 日本眼科学会HP(参照日2019/8/5)
  4. 山本 逸雄 ほか: Osteoporosis Jpn 7(1): 10,1999
  5. Baskaran M et al, Ophthalmology, 113: 1327–1332, 2006
  6. Nagler W et al, Arch Phys Med Rehabil, 54: 237–240, 1973