職場での「燃え尽き」を防ぐマインドフルネス

職場での「燃え尽き」を防ぐマインドフルネス

過去の数々の研究により、過度の長時間労働などが従業員の健康に悪影響を及ぼし、幸福度を低下させることが明らかになっています。

仕事による「燃え尽き症候群」のほか、うつ病や不安障害などメンタルヘルスの問題を抱える人は、先進国に加え経済成長が続いてきた香港やシンガポール、マレーシアなどでも増加しています。

燃え尽き症候群は、職場で慢性的にストレス要因にさらされることでさまざまな症状が出始め、生活に影響が及ぶ状態を指します。

ストレスは経済損失を招く

英国の慈善団体、メンタルヘルス・ファウンデーションが2018年5月に発表した調査結果によれば、同国の成人のうち、その前年に「(精神的に)打ちのめされた」、または「ストレスに対処できなかった」経験がある人は、74%に上りました。

また、ストレスによって「死にたい気持ちになった」人は32%。このうち16%は、自傷行為にまで至ったことを認めています。ストレスは不安障害やうつ病から心臓病、不眠症、消化器系の障害まで、さまざまな疾患と関連しています。

英国の国民保健サービス(NHS)によれば、これらの病気や症状による年間の在院患者数は延べ16万5000人。納税者が負担した治療費は、総額7110万ポンド(約92億2000万円)に上るといいます。

ヨガや瞑想で、心身を健康に

燃え尽き症候群になったり、ストレスが原因の病気を発症したりする従業員の増加を受け、マインドフルネスとその他のプログラムを導入する企業が増えています。企業はそうした取り組みを通じて、メンタルヘルスの問題解決と従業員のパフォーマンスの向上を目指しています。

また、企業には従業員に対し、仕事から離れてリフレッシュする時間を提供することが求められています。ウォーキングでもその他のスポーツでも、体系化された活動を繰り返して行うことにより、燃え尽きによって高まったストレスレベルを引き下げることができるためです。

精神的な癒しをもたらすヨガも、非常に効果的な「ストレス緩和剤」の一つとされています。

ヨガは効果的な「ストレス緩和剤」の一つとされている

あえて職場が提供するワークショップやクラスに参加しなくても、オフィス内で騒音や気を散らせるものを遮断できる場所を見つけることができれば、そこで自分一人で毎日10~15分間、「呼吸の瞑想」を行うことができます。従業員に対し、企業がこうした活動の実践を呼び掛けることも重要だとされています。

企業にできるもう一つの重要なことは、従業員に対し、仕事上の体験やストレスについて誰かと話す機会を持つよう勧めることです。相手が友人でもメンタルヘルスの専門家でも誰でも、話すことが燃え尽きの回避に役立つと考えられるためです。

ネガティブな感情を抑え込もうとすればするほど、神経衰弱やその他の心理的な問題が起きる危険性は高まります。職場には自分の感情を理解し、サポートしてくれる人がいるということを、従業員たちに理解してもらうことが大切だとされています。

アメリカのトップ企業は「マインドフルネス」で社員をサポート

「燃え尽きて」しまった人に見られる主な特徴は次の3つです。

  1. 疲れ果てる
  2. 仕事のパフォーマンスが低下する
  3. 挫折感を抱く

このような心の不調から従業員を守るための取り組みに、アメリカの多くの企業が注力しています。

米経済誌『フォーチュン(Fortune)』が毎年発表する売上高の上位500社ランクキングに入る企業の中には、従業員がこうした状態に陥ることを防ぐため、マインドフルネスやそれに基づく方法を取り入れる企業が増えています。

たとえば、グーグルやアップル、ナイキ、金融大手のゴールドマン・サックスなどです。

マインドフルネスとは?

マインドフルネスは基本的に、その時々の瞬間に注意を向け、何についても評価せずにいようとする状態を指します。

常に刺激を受け続ける中で習慣化した行動パターンによって反射的に動くのではなく、どのように行動すべきか決めようとするのでもない状態でいることです。

これは、情報過多と継続的に何かに注意をそらされるというデジタル時代ならではの問題を解決する最適の方法だと考えられます。マインドフルネスは特にデジタルネイティブの世代の間で関心が高まっていますが、それも驚くべきことではないでしょう。

過去10年ほどの間に、グーグルでの「マインドフルネス」の検索数は、その他の検索ワードと比べて4倍の伸び率を記録しています。

また、マインドフルネスのアプリがプリインストールされているスマートフォンやタブレットも販売されています。

仕事が楽しくなる! マインドフルネスの効果

マインドフルネスのプログラムを取り入れることで得られるメリットとしてまず挙げられるのが、従業員たちの作業への集中力が高まること。そして、最大レベルのストレスであっても短時間のうちに回復できる可能性が高まることです。

結果として、従業員の病欠が減少。また、リーダーたちへの信頼感が高まり、職場に対する従業員のエンゲージメント(愛着心)も高まります。

マインドフルネス・プログラムの提供を通じて健康的な職場環境づくりを目指す企業を支援する米国のサティ・マインド社によると、同社の顧客を対象とした調査では、次の効果が確認されています。

職場に「マインドフルネス」を取り入れる企業が増えてきている
  • 仕事に対する満足度、集中力、意思決定力の上昇(最大66%)
  • 全体的なパフォーマンスの向上(同14%)
  • ストレスや不安の軽減、不安燃え尽き症候群の防止(同38%)
  • 医療費の削減(同7%)

職場に「マインドフルネス」を取り入れることは比較的新しい取り組みですが、上記のとおり、さまざまな効果が明らかになっています。